幸せになりたい!
というのは誰しもが抱いている夢。
「幸せとはなにか?」みたいな話はかしこまって話すことはないけども、一方でお金の話はみんな好きだったりします。
そして、それはお金で包まれてしまっているんだけども、本当はみんなお金持ちになる夢を見ながら結局は「幸せ」「幸福」を常に求めて毎日を生きている現れではないでしょうか。
物心ついたときから大人になってもつきまとう悩み。
豊かになった時代だからこそ、一人一人が自分の幸せを追求することができるようになりました。とってもいい時代。
「お金持ちになることが本当に幸せなのか?」「そもそも幸福ってなんなの?」
これについて、あの国民的キャラクター のび太くんとドラえもんが議論していました。
幸せ=お金?
のび「うわあああぁぁぁぁん!! ドラえもーーーーーん!!!」
ドラ「なんだい? またジャイアンにいじめられたのかい?」
のび「そうなんだよ! あとはテストで0点もとったし、さっきママにしかられてきた。」
ドラ「のび太くんは相変わらず自分のキャラが安定してるねえ。尊敬するよ。」
のび「もう! それはいつものことだからもういいんだよ!」
のび「それよりさ、お金 稼ぎまくって幸せになりたい!」
ドラ「それはまた急だなあ。どうしたんだい?」
のび「スネ夫がね、今週末にしずかちゃんとジャイアンを連れて軽井沢の別荘に旅行に行くらしいんだ。」
ドラ「なんだ、そんなことか。」
のび「大事なことなんだよ。僕は毎日 家と学校を行き来する繰り返し。週末になってもどこも出かけられない。パパとママにはウチには余裕がないから無理って言われるし……。」
ドラ「それもいつものことだから、いいじゃないか。」
のび「あ〜あ、毎日つまんない。どうやったら幸せになれるんだろう。お金さえあれば幸せになれるのになあ……。」
ドラ「まあまあ のび太くん。幸福とは十分なお金があることだと本気で思ってるのかい?」
のび「当たり前じゃないか! 幸せはお金。そうだよ。間違いないね。」
のび「だってお金があったら今週末だってスネ夫たちみたいに旅行へ行ったりアクティビティを楽しんだり、美味しいものを食べられたりしてるんだよ? お金が幸せと繋がってるのは当たり前のことじゃないか。」
ドラ「いやいや、お金に変えられない幸せだってあるんだよ。家族や周りの仲間、信頼関係はお金に変えられないものなんだよ。なにもお金がすべてなんてことはないんだよ。」
のび「ドラえもんはほんとにバカだなあ。それはわかってるよ。だいたいそれはお金が欲しいって話になったときの常套句なんだよ。そんなことは当たり前で、だけどそれでも僕はお金はある程度幸せと直結していると言ってるんじゃないか。」
ドラ「そうかそうか、わかったよ。だけどね、僕はキミと違ってバカじゃない。100倍くらい天才だよ。」
ドラ「話を戻すけど、これについて考えてみると、確かにある程度まではお金が幸せと直結するかもしれないね。なぜなら、やりたいけどできないことを減らすことができるからね。」
ドラ「お金がないからできない、というのは実に残念なことだよね。お金がないよりはあったほうが、自由度が広がるし、人生が充実するよね。美味しいご飯が食べられるし、行きたいところに行けるし、前から欲しかったものが買えるようになるし、勉強する機会や、自分の会社を作ったり、リスクを取ることができるようになる。自分が今まで経験できていなかったことや、やりたいことが実現しやすくなるのは間違いない。そのときに幸せを感じることはできるよね。だからお金が欲しいというのもわかるんだ。」
のび「なんだよ〜、ドラえもん! 話がわかるじゃないか。僕はてっきりキミがバカだと思ってたよ。関心したよ。アハハハハハ。」
ドラ「調子に乗るのもそこまでだよ、のび太くん。」
ドラ「しかしながらだ、同じ幸せが長く続くことはないんだよ。」
のび「えっ、どういうことだい?」
ドラ「キミはずっと前から欲しいと言ってたラジコンがもし買えたら、その瞬間は最高に幸せだろう? だけどどうだい。ひとたび手に入れるとしばらくもすれば、慣れてきて当たり前のようになって、今度は やっぱり他のラジコンにすればよかったとか、次はテレビゲームも欲しいなあとか、別のものに目移りしていくじゃないか。」
のび「それはそうだけど……。」
ドラ「同じ状況に慣れてくると、今度は次の新たなものを実現したいと悩み苦しむんだよ。」
のび「それはそうだけど! でもそんなこと言ってたら、悩みが尽きることは一生ないってことじゃないか! それならいったい全体いつになったら幸せになれるっていうんだよ……!」
「幸せ」や「幸福感」とは何か?
数日後。
のび「やったあ! お小遣いを貯めてきたおかげで、ずっと欲しかったラジコンがやっと買えたよ!」
ドラ「ウフフ。よかったね、のび太くん。」
のび「でもね……、スネ夫がこれよりも一回り大きな最新型のラジコンを持ってるんだ……。僕、ほんとはあっちのほうが欲しいんだよなあ。」
ドラ「またお小遣いを貯めて買えばいいじゃないか。」
のび「そうなんだけどね。でもうらやましい!」
のび「やっぱり僕は一生不幸なままなんだよ。うわーーーーん!!!」
ドラ「はあ……、かわいそうなのび太くんだね。せっかくラジコンを買ったのに台無しじゃないか。幸せになったと思ったら、また悩みが出てきてその繰り返し。ほんとうにしょうがないね。」
のび「違うよ。僕はまだ幸せになる途中なんだ。だからまだまだもっと幸せになれるはずなんだよ。」
ドラ「そうかい? 僕はキミがスネ夫と同じラジコンを持ってたとしても、また同じことを言っていると思うな。そんなことを言ってるキミは、たぶん仮に大金持ちになったとしても、また何かと比べて、うらやましがって、一生そうやって悩んでいくんだろうね。」
のび「それはそうだよ。そうやってまた次の目標へ向かって頑張ろうという気持ちが人を突き動かすんだろ? そこで思考が止まったら終了だよ。もっともっと幸せになる日を目指して頑張らなくっちゃ。」
ドラ「たまにはキミにらしからぬことを言うじゃないか。確かに高い目標を持って成長することも大事だよね。それに、そもそも悩みが尽きることなんて一生ないんだ。何か変えたいという不安があるから、それをなくしたいと思う気持ちが自分自身を動かす。そうやって人類は便利な方向へと試行錯誤して、この豊かな社会を築き上げてきたもんね。志を持って成長しようとすることは確かに大事なことだと思うよ。」
ドラ「だけどね、幸せに関しては追い求めても仕方ないことなのかもしれないよ。」
のび「なんでさ、幸せになれたら毎日楽しいじゃないか。」
ドラ「そりゃそうだろう。だけど幸せな気持ちっていうのは自分の心が作る以上、天井なんてないんだよ。一生キミは幸せ探しに出かけるつもりかい? そればかりを考えて戻ってこれなくなるのが僕は心配なんだよ。確かに不幸か幸せだったら、幸せなほうがいいと思うよ。だけど幸せな日ってそれこそいつの話になるんだよ。『幸せになる』ってそもそもどういうことなんだい? 具体的にわかっているのかい?」
ドラ「キミは欲しかったラジコンを買えたら幸せになるはずだった。だけど手に入れた今は幸せじゃないと言っている。幸せ探しに奮闘している毎日は苦しいよ。それは幸せから遠のいていくような気がするんだよ。」
のび「うーん、そうだなあ。そう言われるとなんだかわからなくなってきたよ。幸せっていったいなんなんだろう?」
ドラ「キミがラジコンを買う前までは、ラジコンを手に入れることが幸せなことだと思ってた。確かに手に入れた瞬間は嬉しいし、幸せに感じていたはずだよね?」
のび「うん。」
ドラ「しかし手に入れた今、幸せになることは、もっと高いラジコンを手に入れることに変わった。幸せの価値観が変わったんだよね。」
のび「たぶん……。」
ドラ「そう考えると『幸せ』や『幸福』っていうものは、何か特定の物を手に入れることでも、特定の目標を達成することを指しているわけではなくて、そのときに頭の中でできた感じ方だよね。もっと言えば、脳内で分泌される幸せ物質のこととも言えるよね。そしてその幸せ物質が分泌されるタイミングは今の状況に応じて常に変わっていくんだ。ある状況からより良い状態に変化したときに起こる一種の反応にすぎないってことさ。」
のび「そうか。変化……。今回で言えば、ラジコンを持っていない状態から、持っている状態に変わったときのことだね。」
ドラ「そう。極端な話、すでにラジコンを持っている状態だったら、同じラジコンをもう一台買っても幸せにはなれない。さらに高いラジコンを手に入れないと、幸せにはなれない。」
ドラ「あくまで幸せは絶対値ではなく、相対値。前と後の状況を比べたときの変化の量ってことになるんだよ。つまり、1000万円から1億稼げるようになった人と、1億から10億 稼げるようになった人では、稼ぐ量で言えば後者のほうがすごいけれども、幸せの量でいったらそんなに変わらないこともあるってことさ。」
のび「そっか。たまに外食でチェーン店のハンバーガーを食べるだけで僕は満足できるけど、スネ夫は毎日 高級料亭の料理を食べ飽きているらしくて、もしかするとそのときの瞬間は僕のほうが幸せだったりするとも言えるわけか。」
ドラ「そうそう。小学生の頃、親に1万円のゲームを買ってもらったときと、将来10万円のパソコンを買ったときであれば、たぶん小学生の頃の体験のほうが勝るんじゃないかな。」
ドラ「同じように1000万円 稼いでも、1億 稼いでも、脳内に広がる充実感は10倍になるわけでもないし、実際に1億稼いだ人がそのままリタイアするかといえば、10億まで稼ごうと苦しんでいるのが現実だよ。だから成功するわけだけどね。」
のび「それなりの貯金があれば一生暮らせるんだからもういいのにな〜。僕は働かずに家でゴロゴロしていたいよ。」
ドラ「不思議なことにそうはならないんだね。ある程度 お金持ちになっても、もっと視野を拡大してさらに上を目指していくし、失敗してあっという間に貧乏に逆戻りする人だってたくさんいる。じゃあその人が特別 愚かなのかと言えばそういうわけでもなくて、次のステージへ進みたいと思うのは人である以上 止められない欲求だし、脳内にそのようにDNAがイップットされている以上、それとうまく付き合っていくしかないんじゃないかな。」
のび「旅行で新しい土地に滞在してみるときは楽しいけど、しばらくすると嫌なものが見えてきて、やっぱ違うな〜、もっといいところがあるかもしれないっていうの、心当たりあるなあ……。あとは憧れていたものを達成できたら急にむなしくなることってあるもんなあ……。」
ドラ「そうだね。脳はすぐに現状に慣れちゃうんだよ。だから幸せを感じ続けることって難しいんだ。」
ドラ「しいて言うなら、もしいつまでも幸せを感じていたいのなら、幸福感を味わっていたいのなら、常に変化し続けることだよ。もしくはいつも辛いことと隣り合わせでいる必要があるということかな。これってかなり大変だよね。だから幸せって なろうと思ってなれるものでもないし、継続して幸せになり続けようなんてことは難しいんだ。」
のび「そうなのかあ。なんだか幸せにならなくてもいいような気がしてきたなあ。」
ドラ「まあ、別に幸せに固執する必要はないよね。だってたかがそのときの感じ方なんだもん。そんなのに振り回されているのはバカらしいことかもしれないよ。きっと見方によっては幸せって必ずしも感じようとしないといけないのかと言われたらそうでもないってことだと思うよ。」
のび「そっかあ。じゃあ幸せのことを考えるのがバカバカしくなってきたよ。もう全て諦めた。そんなの考えてもムダなことなんだね。僕は幸せを求めずに、引き続きダラダラしていくことにするよ。そうと決まったら昼寝の準備をしなくちゃ!」
ドラ「はあ……。キミはやっぱりバカだ。」
のび「バカとはなんだ!」
ドラ「キミは極端なんだよ。僕は幸せという感情に固執する必要はないって話をしただけだよ。だからと言って何にもやらずにいると、社会から切り離されているのではないかとか、仲間がいなくなって社会的な欲求が満たされなくなって、今度はどんどん不安になっていくかもしれないよ。長い目で見たら、今度は不幸に近づいていくかもしれないということだよ。それに幸せに感じることでストレスが解消できるだろ? 幸せになりたいとわざわざ思う必要はないけども、だからと言って何をしてもムダってわけでは全くもってないんだからね。」
のび「そうなのかい?」
ドラ「そうだよ。だから幸せという感情なんかは、自分がやったことに対して結果的についてくるひとつのオプションみたいなもので、それを糧に何か夢中になるものを一生懸命やってるのにこしたことはないということさ。まあなにより夢中になれるものや、好きなことをやってたほうが毎日が充実して楽しいからね。しいていうなら、目標があってそれに向かって頑張っている状態がいちばん現実的で継続的に幸福度を上げる手っ取り早い方法なのかもしれないね。」
のび「そっかあ、なんだよ、それを早く言ってよ。ドラえもんってほんとに水くさいんだから!」
のび「まあいいや! それよりドラえもん、さっそく一緒に空き地でラジコンやろうよ!」
ドラ「もう、のび太くんたら! 仕方がないなあ、ウフフフフ。」
ドラえもん「幸せとは?」編 おわり。
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