エンジニアの転職がここ数年、激しい。
ウワサでよくエンジニアが辞めたという話を聞くのだけど、いつもどの会社も辞めるときは一斉に辞める。
ということは何か見えないけどクリティカルな理由があることが多い。
僕自身もエンジニアをやってきたし、周りの人から転職の話を聞くことが多いので、それなりにたまってきたエンジニアが辞める理由の蓄積をここで放出してみようと思う。
前提として、エンジニアによってもいろんなタイプの人間がいる。
- 社会人になりたて。とにかくいろんな技術に触れてみたい、とにかく新しい技術を使ってみたい。イケてるエンジニアになりたい。
- 黒い画面はずっと見てたくない。プログラムは手段だ。開発だけでなくサービスに広く関わりたい。
- プログラム大好き、コード1つ1つにこだわるぜ。脇目も振らずにガシガシ作っていたい。
- プログラム玄人。家族もいるし仕事だけに集中できなくなってきた。近頃は給料のほうが気になるぜ。
同じように会社の都合だっていろいろだ。
だからエンジニア同士でも一概には言えないし、エンジニアじゃない立場からのツッコミもあるのは重々承知で、だけどとにかくここではエンジニアによく起こる葛藤を、あの国民的アイドルのび太とドラえもんの会話形式でずらずらとピックアップしておく。
これはのび太が大人になってドラえもんとウェブ制作会社を設立したときの話……。
プログラミングは単純作業じゃない!
コンピューターを激しく叩いているのはエンジニアのドラえもん。そして不穏そうな顔つきでPCの画面とにらめっこしているのは企画 兼 マネージャーの のび太くん。
のび「ドラえもぉぉぉぉん!!!」
ドラ「なんだいのび太くん騒がしいなあ。いったいどうしたんだい?」
のび「いや、それが仕様変更したいんだけど、今日までにやらないとユーザーに迷惑かかっちゃうんだ。なんとかしてくれない?」
ドラ「うーん、仕方ないなあ。」
のび「ここをちょっと変えたいだけなんだ。簡単な修正だからすぐできるでしょ? お願い!!」
ドラ「いや、そんな簡単なもんじゃないんだよ。第一、修正するのは僕なんだ。キミは何もわかってないくせして、よくもそんな簡単なんてことを口にできるね。それはエンジニアの自尊心にかけて絶対言っちゃいけない言葉だよ。」
のび「そうなの? でも前はチョイチョイチョーイって直してたじゃないか?」
ドラ「いや、直せることは直せるんだけどね……。」
のび「なんだよ、水くさいなあ。どういうことかわからないよ!」
ドラ「なんだ! そこまでいうなら僕も黙ってられない! 言っておくけどプログラムを組むということはそんな単純なものじゃないんだ!」
のび「どういうことだい?」
ドラ「まず手順どおりに作ったら終わりなんて単純作業の積み重ねじゃないんだよ。」
ドラ「キミが例えば窓掃除をやるとするじゃないか、すべての窓を拭いたらそれで完璧!ってなるだろ?」
のび「そうだけど……。」
ドラ「プログラムを書くという行為はそうはいかないんだよ。」
のび「うーん、もうちょっと詳しく教えて。」
ドラ「最初に企画会議でキミと一緒に作るものを決めていたよね? その間にも、
- どこにそのプログラムを入れよう
- どこまで準備しておけば実用に耐えうるか
- 既存のシステムに影響はないか
- 作り終わったあとの運用に支障はないか
- そのうえでそもそも実現できるのか
なんて不安が常に頭の中を駆け巡っているんだよ。」
のび「そうなんだ……。」
ドラ「僕も企画の段階からそんなことを考えたくはないよ。だけど前提としてエンジニアはみんなの頭の中にあるものを形にするお仕事だ。」
ドラ「だから実現できなければお話にならない。というより最終的に作るのは自分だし、無理なことを言ってあとから苦しむのは結局 自分自身だからね。だから形にできる前提で企画について論じてしまう生き物なんだよ。」
のび「それはわかったよ。」
のび「でもそんなことを言ってたら世間をワッといわせる革命的なサービスが作れないじゃないかあ! そんなの嫌だよお!! うわああぁぁぁん!!!」
ドラ「うん、それはわかってる。企画の段階ではどうしてもエンジニアは嫌がられがちなのはわかってるんだ……。だから最終的には作るものが決まったら頭を切り替えて取りかかってるだろ?」
ドラ「最終的には要件さえわかればあとは手を動かすだけなのだから、少しの反抗は決めつつも、あとは作業に入るんだよ。基本的にプログラムを書くことが好きだし楽しいんだから。」
のび「なんだ、そうだったんだ。ドラえもんがプログラムを書くのが楽しいと聞いて安心したよ。」
のび「こないだの企画の実装、期待してるよ! とりあえず今回の修正はあとからでもいいから、とりあえず今の作業に集中して!」
ドラ「んもう、調子いいなあ。わかってるんだか、わかってないんだか……。」
ドラ「まあいいや。とりあえずこないだのプロジェクトについては設計まで終わってるんだから実装に移ろう。期限は1週間先だから余裕をもって実装できそうだな。」
仕様変更にかかる負担
2日後。
のび「ドラえもおおぉぉぉぉぉぉん!!!!!」
ドラ「なんだいのび太くん、うるさいなあ。せっかく今日は朝イチのレッドブルをきめて、頭が冴えてるんだ。このボーナスタイムにプログラムを一行でも多く書きたいんだよ。頭の中にあるメモリの情報を早くプログラムという形で発散しないと、また午後から考え直しになっちゃう。言いたいことがあるなら早くしておくれよ。」
のび「いやあ、こないだ決まった企画のことなんだけどね……。」
ドラ「フムフム、フムフム……」
ドラ「ええ!!! なんだってーー!!! 今から機能を追加する?!?!」
ドラ「悪いけどもう取り掛かってるんだ。ムリだね。」
のび「そんなこと言わずに頼むよ、ドラえもん!」
のび「完成形のイメージが湧いてきたら、足りないものに気づいてしまったんだ……。あれも入れないと、これも入れないとってなっちゃってね。でも難しいものではないんだ。ちょっとテーブルにフラグのカラムを増やせばいいだけだし簡単なものだから入れられるでしょ?」
ドラ「またキミはそうやって気安く簡単なんてことを口にするじゃないか。それにフラグなんてちょっとこないだ習ったプログラムの知識まで飛び出してきて……。それは一旦現状を見てみないと結論は出せないよ。もちろん本当にすぐにできるものもあるよ。だけどキミから言われたもののほとんどはフタを開けてみれば簡単じゃないものの方が圧倒的に多いんだ。」
ドラ「キミは早く結論を出して作って欲しいからそう言っているのかもしれないけれど、だいいち企画だってこうやって何度も変更しているじゃないか。それならプログラムを構想する時間だってそれ以上に必要なんだよ。少なくとも一旦考えてあとで返信させて欲しい。ここで作ってもいないキミが口出しして決めようとするのは、歯磨きしようとしたらお母さんに歯を磨きなさいと言われるくらい不快なことなんだ。」
のび「最後の例えはよくわかんないけど、だいたいわかったよ。今後は気をつけるから、仕様変更を頼むよお。お願い!!!」
ドラ「うーん、困ったなあ……。」
のび「ちょっと聞いてもいい? 純粋な疑問なんだけど、そんなに困るのがどうしてなのかわからなくて、それってどういうことなんだい?」
ドラ「そうだねえ。これはよく積み木に例えられることが多いかな。まずは企画が決まった段階で、ブロックをどう積み上げていけばストンとプログラムに書き起こせるのか、きれいなお城の設計を考える。」
ドラ「こうして全体が見えた段階でそこからやっとプログラムを下のブロックから積み上げていく。」
ドラ「しかし中盤までブロックが積み上げられた時点で、例えわずかな変更であっても一番下の真ん中のブロックを青から赤に変えてくれなんて言われたときにはいったん今までのブロック崩して組み直しになっちゃうんだ。」
のび「そうなんだね、わかったよ。気をつける。だけどねドラえもん……もうひとつ問題があって……」
ドラ「ええええええええ! 期限を変えちゃいけない?!?!」
ドラ「なんでだい、おかしいじゃないか。最初に設定した期限から2つも実装しなければならない機能が増えてるんだよ? どう考えても時間が新たに必要になることは明白じゃないか。それに残された実装期間は休日を除くとあと2日しかないんだよ? そんな無茶なことは困るよ。」
のび「ごめん、てっきりすぐにできるものだと思ってたんだ。見積もりが甘かったよ。しかしこの機能は今回のプロジェクトにはユーザーにとって必ず必要なものなんだよ。そこをなんとか頼むよ。お願い!!」
ドラ「うーん、もうしょうがないなあ。」
ドラ「苦肉の策だけど、青色のブロックの上から赤色のシールを貼ってそのように見せかけることにするよ。」
のび「え! そんなことできるの?!」
のび「なんだよ〜、そんな方法があるなら早く教えてよ。水くさいなあ、ド・ラ・え・も・ん♪」
ドラ「調子がいいなあ。別にこれは隠してたわけじゃないんだ。ただの応急処置だよ。」
ドラ「ひとまずはなんとかできるかもしれないけど、あくまでハリボテ。とりあえず動くようにはなってもリリース後にまた修正する必要があるから本当はやりたくないんだ。万が一これをほっとくと、あとからそれがボディーブローのようにじわじわ効いてくるからね。」
のび「え、どういうこと?」
ドラ「たとえばリリース後、また別の仕様に変更するときに、このシールをはがしたり、上からまた貼ることになって、このブロックは使い古されていき、誰も手につけられない状態となるんだ。結局あとからまたプログラムを最初から書き直しになって長い目で見ると、ムダな工数が増えてしまうことになりかねないんだよ。」
ドラ「だからそもそもやらないことだと思っておいた方がいいね。エンジニアが今から仕様変更できないと言う一言にはこれだけの意味が詰まっているんだ。」
のび「そうだったんだ……。それにしてもなんだよ。それなら一言で言わずにこうやって説明してくれたら僕も納得がいくじゃないか。最初からそう言って欲しかったよ。」
ドラ「それはそうかもね。でもここまで来るのにすでに4000字も使ってるじゃないか。こんな長文でしかもやっとのことで抽象的なブロックの例えでしか説明できてないよ。実際はもっと説明したいことが山積みだし、第一プログラムを扱っていない人に実情を理解してもらうのは至難の技だと思うよ。」
ドラ「僕がプログラムについての現状をわかりやすく語る責任もあるとは確かに思うけど、本当に理解できるようになるためにはキミも勉強は必要だと思うね。」
ドラ「それにただでさえ誰とも会話せずに黒い画面に一日中向かってて、扱いづらい存在なのはわかってるんだ。ちっちゃな変更でごちゃごちゃ言ってくるのは無能なエンジニアだ、なんて扱いになってもイヤだからね。」
のび「言い分はよくわかったよ。とにかく期限までになんとかしてもらえるとわかって助かったよ。」
ドラ「ううん、わかってくれるならいいんだ。それにサービスのためなんだから。サービスを愛しているからやれるんだよ……。」
コードに妥協はしたくない
週末。
ドラえもんは朝からPCに向かって、カタカタとコードを書き出していた。
目に優しい黒背景に設定したエディターソフトの奥では、のび太くんが気持ちよさそうに寝ているようすがわずかに反射して写り込んでいるのが見える。
のび「ムニャムニャ……う、うーん、、ファアアアアアァァァァ……。ん、もう朝か。」
ドラ「のび太くん、おはよう。もう昼だよ。」
のび「寝すぎちゃったなあ。ドラえもんは休日も忙しそうだねえ。朝から何をやってるんだい?」
ドラ「昨日の続きをやってるんだよ。」
のび「ああ、こないだの企画のやつね……。」
のび「ん……ええ!!! あれは青色のブロックの上から赤色のシールを貼るという作戦で一旦は落ち着いていたじゃないか。スケジュール通りで週末までやる必要はないんじゃなかったのかい?!」
のび「ははーん、さては平日に仕事をサボってたな……。そのツケが今回ってきてるんだ。小学生の頃はあんなに僕に宿題をしろと説教したくせに、ドラえもんだって同じじゃないかあ、アハハハハハ!!!」
ドラ「キミは本当にバカだねえ。そして僕のモチベーションを下げる天才だね。」
ドラ「たしかに赤色のシールを上から貼る作戦で進めれば予定通り週末に仕事はしなくてすむし、とりあえずは期限に間に合うよ。」
のび「じゃあそれでいいじゃないか!」
ドラ「だけどね。それだと気持ちが悪いんだ。結局 裏から見ればハリボテでどうせ後から直す必要のあるプログラムを書くくらいなら、今からちゃんと作った方が気持ちがいいだろ。」
ドラ「それにまた来週は次のプロジェクトがたくさん待ってる。このプログラムを後から書き直す時間は残されていないんだ。余裕が出る時期までずっと放置しておくのは精神衛生上、穏やかじゃない。だから今からやっておくんだ。」
のび「ドラえもんは責任感が強いなあ。もっと気を抜いてラクにやりなよ。僕みたいに。」
ドラ「キミが期限ギリギリで仕様変更をねじ込まなかったらこうはなってないだろ!」
のび「ごめーん……。」
ドラ「まあいいよ。とにかく妥協せずに体裁のとれたプログラムを書いておくことは、リリースを気持ちよく迎えるために必要なことなんだよ。とりあえず取って付けたような妥協したコードを世に放つより、週末まで費やしてコードを書く負担のほうが圧倒的にラクなんだ。だからやるんだよ。キミには関係ないし、気にしなくてもいい。レッドブルの差し入れくらいしてくれるだけで僕は十分 満足だよ。」
のび「なんだか悪いね……。後からレッドブルを買ってくるよ。それにキミの好きなどら焼きも。」
ドラ「いや、いいんだよ。コードを整理するのはどれだけでもやる。むしろやりたい。作っているサービスを愛しているのだから、ヘタな真似はしたくないし壊したくない。会社のためにやっているというよりは自分のため。そして一緒に働く周りのエンジニアが保守しやすいように。ひいては気持ちよくリリースの喜びを噛みしめるためにやってるんだ。」
成果物が想定と違うのは誰のせい?
リリース当日。
のび「今日はリリース日だね! ドラえもん! そういえばリリース前に最終チェックをしたいから見せてよ。」
ドラ「いいよ。はい。」
のび「サンキュー! どれどれ……ん、あー、ん、うーん……。」
ドラ「何か問題でもあったかい?」
のび「いや、こんな感じだったけど、何かが違うんだ。実際に動いているものを触ってみるとこういうイメージじゃなかったような気がするんだよなあ。」
ドラ「いや、企画の段階でこういうものを作ってほしいと言ってたじゃないか。」
のび「確かに要件は充してるんだけど、何か違うんだよねえ。」
ドラ「じゃあそれはなんなんだよ。出来上がったものに対する機能の不満、デザインや使い勝手、いつもキミは完成系を見て、僕にやり直しを食らわせてくるね。素敵なサービスをユーザーに届けるためにそれは大事なことだと思うけど、みんなで決めたのにも関わらず、どうしてあれもこれもエンジニアのせいにしてくるんだい?」
のび「だって作ったのはキミだろ?」
ドラ「それは少しだけ正しい。でも間違ってる。」
のび「間違ってることなんてあるか。最終的に仕上げるのはキミの仕事だろ。僕はプログラムを書けないんだから。」
ドラ「いや、それなのであればなおさら、最初にきちんと細かいところまで決めておくべきではなかったのかい?」
ドラ「キミは途中で何度かあーでもない、こうでもないと、仕様の変更を言ってきたよね。時事刻々と求められることが変わることはまだわかるよ。でもあきらかに最初に詰めておけばわかることまで僕に言ってきてたじゃないか。ましてや最後の最後に何かが違うというのは、要件が違っているなら僕のミスだけど、それ以外の何かがイメージと違うというのは、それは単純に最初にみんなの頭の中に作るものが共有されていなかったんだよ。」
ドラ「プログラミングは魔法じゃないんだ。手紙と同じで人間の思っているものを文字に書き出すだけだよ。頭の中にある以上のものは生まれない。ざっくり伝えておけばあとでエンジニアがなんとかしてくれるなんて思ってたら大間違いだ。」
ドラ「キミが最初にざっくりとした要件だけ伝えて横着すればするほど、最終的に仕上げる僕の方にしわ寄せがやってくる。」
ドラ「これはキミひとりのせいなんてことは言わない。僕も逐一本当にこれでいいのか作る前に確認できたはずだからね。だけど少なくともそれを僕の実装のせいにしてくるのは間違ってるよ。やっぱりなおさらきちんと実際の完成イメージを確認しあっておくべきだ。それが面倒なら完成したものに文句を言わないことだね。」
のび「うーん、でもどうすればわからないよ……。エンジニアがどこまでの情報を求めてるのかわからないし……。どこまで必要なのかの勘所がわからないよ。」
ドラ「それなら思いつくもの全部だと思えばいいんじゃないかな。イヤというところまで全て細かく情報を開示してくれ。そしてもし、逐一要件を決めていく方法にしたり、出来上がってからまた考えるというやり方にするなら、それだけ実装時間は相乗的に増えていくということを理解しておかなければならないね。」
ドラ「積み木だって一度完成したものから増設しようとするときはまた一部のブロックをバラすだろ? 要件が増えれば組み立てる量だけが増えるわけじゃない。バラす時間とくっつける時間も必要になるんだから。」
のび「そんな難しいこと言われたらわかんないよ! うちはまだ超スーパーベンチャー企業だぜ? こんなに細かいところまで気にしてたら他の会社に追いつけないよお!!」
ドラ「だったらなおさら最初に決めておくべきことを決めておくことだね。それにきっと超スーパーイケてるベンチャー企業ほど、サービスに対して細かいところまで最初から気にしているよ。最初にしっかり土台を考えておいた方が結果的にスピードは早いんだ。そこはお互いのセンスやスキル量も関係してるし、キミの都合だってあるだろう。どこまでお互いわかりあえるかという試練でもあるかもね。正直言って進め方に明確な正解はないんだから。」
のび「でも最近ではエンジニアもどんどん多様化してるじゃないか。バックエンド、フロントエンド、インフラだけでなく、マネージャー、UI、UX、デザインからマーケティングの何から何まで面倒見てくれる人だっているよ。何から何までやってくれる人がいれば、細かいところまで伝えなくてもいいからコミュニケーションコストが下がるし、結果的にリリーススピードは早くなるじゃないか!」
ドラ「そうだね。中には超スーパーイケてるエンジニアもいるからね。そんな人がいれば話は早いしキミはかなりラクになるだろうね。だけどそんな人はめちゃくちゃいい条件でイケてる企業に買われていくんだ。そんな夢みたいなことを考えるのならまずはキミがこの会社をイケてる企業にしてくれよ。そのためにはやっぱりまず僕らの意識を変えていかないとね。」
のび「そうかもしれないけど……。」
ドラ「それに僕がキミに完成物を責められれば責められるほど、僕の心は閉ざされていくだけだよ。きちんとあらかじめ仕様を決めてね、あらかじめサイト構成もしっかり決めといてね、そうじゃないものは一切受け付けない、と言った具合にね。ヘタなものを作って責任を押し付けられても困るし、それにあとから実作業で困るのは自分自身だ。ということは少しでも爆弾が抱えていそうな曖昧な仕様のものを受け付けるのはやめないといけなくなる。それが僕のせめてもの反抗だし、エンジニアが安心してコードを書くために必要なことだ。そういう流れになっていくことは仕方のないことだよ。」
ドラ「それはあるひとつの解決案だし、それが嫌だったらキミもやり方を考えて変えることだ。」
隣の芝生は青い
数ヶ月後。
ペラッ
のび「ん、ドラえもん、キミの机から何か落ちたよ。なんだこれ……。」
のび(転職フェアのチラシ? そして履歴書……??)
ドラ「あ、これは、なんでもないんだ、のび太くん……!」
のび「どうしたんだい、そんな慌てて……。それに顔が真っ青だよ。」
ドラ「顔が青いのはもとからだよ。いや、なんでもないんだ。」
のび「それならいいんだけど……。」
のび「ドラえもん、僕になにか隠し事をしてないかい?」
ドラ「む……そんなことは……、いや、ちょうどいい機会だから言っておくよ……。」
のび「えええええぇぇぇぇぇ!!! 転職を考えてる?!?!」
のび「なんでだよ! ここまで一緒に頑張ってやってきたじゃないか! 不満があるならもっと先に言ってくれよ!!」
ドラ「いままで散々言ってきたじゃないか。でもキミは数ヶ月たっても変わらない。だからもういいんだよ。」
のび「そんなあ〜。キミにいろいろ言われてから僕だって努力してきたんだよ。それにキミだってそれだったらこうやって爆発する前にもっと僕に言ってきたらよかったじゃないか! そんないきなり転職を考えてるなんて言われたら話が飛躍しすぎて僕だって困るよ!!」
のび「そうだ! キミはもしかしたらそんなことを言ってるけど、本当は自分の思った仕事ができないから正当っぽい理由をつけて逃げ出すんだね。」
ドラ「僕は心底キミに呆れ返ってるよ。もうそう思うならそれでいいんだ。そうやって同じことを繰り返しても知らないよ。 僕が今まで言ってきたことや、やってきたこと以上に何もないよ。それでも変わらないならもう変わらないってことだ。僕はこれ以上キミとこうやって議論を深めるくらいならサッと消えていくほうが性分に合ってるし、僕も幸せなんだ。」
ドラ「それにあんまりこんなことキミに言いたくないけど……。今のエンジニアの求人数は有り余るほど多いよ。「リクナビNEXT」や「@type」といった転職サイトからは日々スカウトだらけ、イベントや勉強会に行ってもたくさんの魅力的な会社から声をかけられて、Facebookメッセージやメールボックスは魅惑のささやきでいっぱいだ。そんな状況の中にいれば、隣の芝生は青くも見えてくる。実際に現状よりのびのび開発ができて、面白いものが作れて、待遇が良い会社なんていくらでもあるんだよ。」
のび「さりげなくアフィリエイトを貼らないでおくれよ……。」
ドラ「ごめんごめん。でもこれは僕も実際に登録したんだから本当だよ。」
ドラ「それにしずかちゃんも転職してる。スネ夫はフリーランスになってるよ。それからジャイアンも。今は超売り手市場だから実力がある人だけでなく、数年の経験があってそこそこプログラムを書けるだけでフリーランスになれて今より自由な働き方ができてしまうくらいだよ。実力さえあれば今の給料から2倍になることも現実的だよ。それなら、自分もそろそろ……なんて考えてもなんらおかしいことではないんだ。まあ、最初はフリーランスエンジニアならほぼ全員知ってる「レバテックフリーランス」を使うのがオススメだけどね〜。」
のび(いよいよ節操なく宣伝してきたな……。)
ドラ「だから僕にとっては今の会社で環境が変わるのを待つよりも、新しいステージで生き抜く選択のほうがリスクが少ないんだ。だからキミと議論して解決しようなんてことはとうの昔に終わってることなんだよ。だからと言ってキミに何か恨みなんてないし、僕は次のステージに向けてワクワクしてる。僕はできることならキミに気持ちよく送り出してほしいんだよ。」
のび「いやだよおおおぉぉぉ! ドラえもん! そんなのひどすぎるよ!! これで良いとは思わない。僕はどうすれば良かったんだよおおおぉぉぉ!!」
ドラ「どうすればいいのか本当のところは僕にもわからない。それぞれの会社で求められることは違うからね。ただ結局は人と人との話だ。お互いに理解しあって寄り添わなければならないことだと思うよ。難しいね。そんな簡単にこの問題が解決するなら世の中からケンカや離婚や戦争がなくなってるということだからね。」
のび「確かにそうかもね。僕もプログラミングを勉強してみようかなあ。」
ドラ「それは良い心がけかもしれないね。例えば今はエンジニアだってプログラムさえ書ければいいってわけじゃない。最近では求められる範囲が広くなってきて、プログラムだけでは戦えなくなってきている雰囲気もあるよ。きっとこれからは『何かの職種 × プログラミング』が当たり前の時代になってくると思うんだ。だからできることなら全員がプログラミングを学んでおくことは悪いことじゃないよね。別にプログラムを書けるほどまでいかなくても、プログラミング的思考さえ身につけておくだけでだいぶ変わるよ。それが仕事やこれからの時代に役立つはずだよ。」
のび「でも何から勉強すればいいんだろう……。」
ドラ「初心者が一から自力でプログラミングを勉強するのはハードルが高いね。今はプログラミング学習ができる便利なサービスがあるからそれを使ってみるのもいいんじゃないかな。もっとも、TechAcademy(テックアカデミー) や CodeCamp(コードキャンプ) がオススメだけどね!」
のび「なんかうまくのせられてる気がするなあ。でも無料体験もあるからこれなら試しにやってみるのもいいかもなあ。」
ドラ「まあまあ、善は急げだよ。のび太くん!」
ジャイアン「おい、のび太ああぁぁぁ!」
のび「ん、下からジャイアンの声がする。」
ガラッ(窓を開ける音)
のび「どうしたの? ジャイアーン! それにスネ夫まで。」
スネ夫「今日は空き地でやってるハッカソン(制限時間内でチームごとに技術やアイデアを持ち寄ってサービスの開発を行い、成果を競うイベント)に行くんだったろ! 早く来いよ!」
のび「あ、そうだった! 忘れてた……! ドラえもん、ごめん、ちょっと行ってくる!」
ドラ「やれやれ……でもこれで集中して作業ができる。今日も空は晴れてて気持ちがいいなあ。まさにコーディング日和だ。うん、もうちょっと頑張ろう。」
独り言をぶつぶつ言うと、転職フェアのチラシと履歴書をシュレッダーにかけ、レッドブルを一口飲んだ。いよいよリリースは目前。コーディングはいつにも増して、いっそう熱が入った。
「エンジニアの葛藤」編 終わり。
※ このお話はフィクションです。
他のドラえもんシリーズ記事はこちら。