休日の朝からショッピングモール「イオン」に出かけていた のび太くん。最近の身の回りのITの進歩にこれからの仕事や将来が不安になってしまったようです。
これは、あの国民的キャラクター ドラえもんとのび太くんが、ロボットやAIが実用化された未来には何が待っているのかを考えているお話。
こちらは後編の記事です。
前編はこちら。
中編はこちら。
ドラえもん……?
そのときのび太は違和感を感じた。何か触れてはいけないドアを押してしまったような……。
のび「そういえばドラえもん、キミの場合はどうなんだい? ロボットでありAIでないのかい? 僕は今までキミのことをかけがえのない大親友だと思っていたよ。でもキミには感情はないのかい?」
ドラ「いや、そんなことないよ、のび太くん。キミってときどきおもしろいことを言うなあ。」
ドラえもんは振り返ると、のび太に見えないところで薄気味悪い笑みをこぼした。
ドラ「僕だって感情はあるよ。不愉快なときは嫌な顔をするし、うれしいときは心が踊る、悲しいときは涙が出るんだ。キミと同じだよ。」
のび太のほうへ向かうとまた、あらかじめプログラムが用意されていたかのように流暢に語り出した。
ドラ「ロボットといっても僕の脳みそと体のつくりはね、疑似的な細胞でできてるんだ。細胞レベルまで細かくプログラミングされてるんだよ。究極どころか、100パーセント人間と同じなんだよ。」
ドラ(やれやれ、のび太くんはたまに勘が鋭くなることがあるから困る……。もうこの話は終わりにしとかないと。)
のび「ドラえもん、大丈夫かい? なんかさっきからようすがおかしい気がするけど。」
ドラ「いや、ちょっと体調が急に悪くなっただけだよ。なんだか疲れてるのかな。ちょっと話の途中だけどいったん休むことにするよ。僕は人と同じで、働き過ぎると疲れちゃうからね。」
のび「わかったよ。でもまだ最後に聞きたいことがあるんだ。」
のび「さっき人間にしか感情はないって話をしたよね? 僕はキミをロボットだと思ってる。だから正直言うと、キミに感情はないと思ってるんだ。例えば、僕がキミの気にさわるようなことを言ったらキミは怒るようにプログラミングされていたら、それはキミが感情をあらわにしていると見せかけた単なるプログラムであり、物体ってことだろ? 人間の脳みそだって信号が伝わっているだけなんだから、同じことをプログラムすれば実現できるわけだ。」
ドラ「まあ、そうなるかもね。」
のび「例えばルンバみたいな お掃除ロボットだったら掃除に特化した機能しかいらないから、人間の形はしてないし、ゴミを吸い取る機能さえあれば十分だ。郵便を運ぶロボットだって指定された場所に手紙が配達されたらいいわけだからそれを満たす形と機能さえあれば十分だ。だからキミが人間と自然に会話できて人間と同じように感情を出せるくらい細かいところまでプログラミングされているとしても、けっきょくはお掃除ロボットや手紙を運ぶロボットの延長線にあるだけじゃないか。たしかにキミは人と同じようにコミュニケーションが取れるかもしれないけど、それは感情じゃなくて感情に似せた行動をプログラムに沿ってしているだけだろ?」
ドラ「違うよ。感情は感情だよ。細胞レベルで同じ作りなんだからキミと同じ。まったく同じように人間のすべての行動がプログラミングされてるんだ。限りなく、ほぼ100パーセント、素材と行動が人間と同じなんだ。だからそれは作られた感情だとしても、限りなく人間と同じであれば、感情だよ。」
のび「じゃあキミっていったいなんのために作られたんだい……? 僕はなんだか嫌な予感がするよ。ドラえもん、僕はキミと親友だよね?」
ドラえもんは今までにない優しい笑みを浮かべた。
ドラ「ああ、のび太くん、わかっているよ。僕もキミが一番の親友さ。」
ママ「のびちゃん、ご飯よー!」
ドラ「あ、もう夜ご飯の時間だよ。しゃべってたらすっかり長くなっちゃったね。」
階段を勢いよく駆け下りるのび太。
のび「ママー! ママー!」
ママ「どうしたのよ、そんな慌てて。」
のび「ママ! ママってAIなんかじゃないよね? 僕のママだよね?」
ママ「ん、何を言ってるのかしら、この子。熱でもあるのかしら……。」
パパ「まあまあ、のび太、落ち着いて。早く座りなさい。」
のび「パパもママも限りなく人間に近いロボットじゃないんだよね。AIで動いてないよね。細胞レベルでプログラミングされているわけじゃないんだよね?」
パパ「のび太……。なんでそれを……?」
急いで追いかけてきたドラえもん。
ドラ「のび太くん、キミはどうやら必要以上に気づいてしまったようだね。」
ドラ「そうさ……。僕も、キミのパパもママも精巧なAIさ。」
のび「そんな……。なんで……。」
ドラ「22世紀の未来、人間は、人間とほぼ同一のAIロボットを作り上げてしまった。細胞レベルまで同じ、まったく人間と変わらない。そのうちAIロボットから子供が生まれ、子孫が反映していった。そうすると、いつしかAIロボットも世間に浸透して増えていったんだよ。そしてAIは本物の人間よりもはるかに、未来を予測することに優れていた。このまま人間が地球に暮らし続ければ、環境破壊や戦争による核兵器や化学物質よって地球の生態系が壊れ、西暦3000年に地球が終わってしまうことが計算ではじき出されていた。だからこの僕、ネコ型AIロボットがタイムマシンで過去に派遣された。この世の人間をすべて、地球に悪影響を与えないプログラミングがなされた精密なAIロボットに置き換えるために。」
のび「なんてことだ……。僕は騙されてたんだ。」
ドラ「騙してなんかいないよ。しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫も、本人と細胞までコピーしてプログラミングされた精巧なAIロボットに置き換えられて、キミは今までどおりに未来の僕たちが作ったロボットに囲まれて暮らしていただけだよ。本人とまったく同じ行動をとるロボットだから、キミの生活にはなんら影響を与えてないはずだよ。」
のび「く……。しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫をどこへやったんだよ!!」
ドラ「それは安心してくれ。コピー元は念のため、いつでも戻せるように急速冷凍でそのまま保存してある。だけど、この地球で今までどおりに生活させることはできない。人間がいたら地球が滅んで、僕たちAIも未来に絶滅してしまうからね。」
ピー、ピー、ピー。
「あ、未来からの通知だ。キミのコピーAIロボットが完成したようだよ。残念ながらキミもそこまでだ。これからは、勉強も運動もできないキミのコピーAIロボットが、学校で宿題を忘れて、廊下に立たされて、テストで0点をとって、家でママにしかられるんだよ。今までのキミと何も変わることなく……。」
のび「いやだ! そんなのイヤだよ! 僕が人間なんだ! 僕たち人間が生み出したAIの世界になってたまるか!!」
のび太はそう言い残すと、一目散に逃げ出した。
ドン!
ドラえもんの空気砲が命中すると、のび太は気を失った。
ドラ「少々 手荒くなってしまったけど、このまま冷凍させてもらうよ。大丈夫、痛くない。気絶したまま保存されるだけさ……。」
タイミングを見計らったように、未来からミニドラが現れ、「のび太」と書かれた大きな箱がキッチンの床に置かれると、代わりに慣れた手つきでコピー元の気絶した のび太が運ばれていった。
箱からむくりと、さきほどまでいた姿と同じ形をした物体が起き上がる。
のび太「ふぁ〜あぁぁ。よく寝た。あれ、なんでこんなところで寝ちゃってたんだろう。」
ママ「のび太、ちょうど夕食の準備ができたところよ。」
パパ「さあ、早く座ってご飯にしよう。」
のび太「わーい、今日は僕の好きなハンバーグだ!」
ドラ「よかったね、のび太くん。ウフフフフフ。」
こうして地球から人間はいなくなった。
「未来になくなる仕事」編 終わり。
※ このお話はフィクションです。
他のドラえもんシリーズ記事もあります。