この記事の続きです。
1話目はこちらです。
無事に今日の作業が終わるだろうとたかをくくっていたそのとき、問題は発生しました。
工事会社の方から聞いたのは、確か機器に電気を流しても通電しないとかそういう話だったと思います。
「今日は作業中止したほうがいいかもなあ。」
というのを聞くと、これはただごとじゃないと思い、急いで本部に連絡することにしました。
ちなみに、何かあったときは本部まで報告するように上司に言われていました。
本部に報告
焦りながら、さっそく電話をします。
知らない男の人が出ました。
僕「あ、あのー……機器の動作チェックがうまくいかないと工事会社の方から報告を受けたんですが……。」
本部「えーと、ごめんなさい、ちょっとこちらではわからないですね……。一度工事会社の方と相談してもらえますか?」
なんだか面倒なことになってきました。
今度は工事会社の人にそのことを伝えます。
困った顔になっています。
「ちょっともう一回、試してみようと思います。」
と工事会社の人がまた作業を始めました。
プロジェクトの闇
遠くのほうで見ていると、やっぱりうまくいっていないようで、なにやらどこかに電話をしていました。
そして、また作業を始め、10分ほどでしょうか。
「あ、直ったみたいですー。」
と伝えられました。
この数十分の間に直ることなんてあるのでしょうか。
いや、うまくいったなら良かったし、気にしすぎなのかもしれません。
でもこんな短時間に動かない精密機器を直すことができるのかが気がかりでたまりませんでした。
そしてもし、直っていたなかったなら、このまま問題がたらい回しにされてどうなっていたんだろう……。
これはシステムが稼働する前なのでまだ良いとしても、システム稼働中にトラブルが発生して、誰もわからずに止まってしまうとしたら大事故だったかもしれません。
世の中にはそんなニュースがたびたびありますが、こうやって問題が起こっていくのかと考えたらゾクッとしてしまいました。
ちなみに、このプロジェクトはトラブルが頻発していました。
それもあってか、人員の入れ替わりが激しく、一人抜けてはまた一人と辞めていき、その代わりに新しい人が入ってきます。
プロジェクトの闇を映し出していました。
みんな針穴に糸を通すように、なんとか進めている感じがして、自分の実力以上、知っていること以上のことをやっているような感じでした。
わからないなりになんとか進めなければいけないという、ギリギリの綱渡り。
そんな精神的な安全さがない状態で作業を進めるとさらにミスが起こってしまいます。
終わった……
そうこうしているうちに機器の設置が終わり、僕の設定作業に移ります。
もうこれ以上のトラブルは御免なので、もはや何も起こらないことを願いながら作業を進めるのが精一杯でした。
祈りが効いたのか1時間後、それから何事もなく全ての作業が完了しました。
気づかぬうちに背中にかいていた大量の汗を、ここで初めて感じました。
終わった……。
帰りのタクシーの中で聞いたおっちゃんの夢
帰りはもうバスがなくなっているため、タクシーで帰りました。
そのタクシーのおっちゃんは気さくに僕に話しかけてきます。
「東京で働いてんの? 若いのに大変だねえ。」
「オレもね、都会でサラリーマンやってたんだけど、理不尽なことが多くてやめてやったんだよ。」
「○○の国に移住すれば月3万円くらいで庭付き、プール付きの家に住めるんだよ。」
「だからね、今やってるタクシーである程度 貯金が増えたら海外へ移住して、あとは働かずにのんびり暮らすよ。そのために今働いてる。」
という将来の夢の話を延々と聞かされました。
そのウソかホントかよくわからない話が、今の自分の疲れた体には全てホントのように聞こえ、引き込まれてしまうようでした。
田舎でタクシーに乗る人も少なく、久しぶりの良い話し相手にもなっていたようでした。
僕は疲れてひたすら話に相づちを打つことしかできませんでしたが、
(みんな大変なんだなあ……。)
と、うつろうつろに声を聞いていました。
ホテルに到着
もう外は真っ暗です。
宿泊先のホテルに着くやいなや、すぐにベッドの上に転がりました。
忘れないうちに上司に今日の作業が無事に終わったことを伝え、電話を切りました。
「フー……。」
と、自然に出てくる大きなため息が今日の疲れを物語っていました。
1日中 気を張っていたので、もう何をする気力もわきません。
シャワーも浴びず、ご飯も食べず、服も着替えず、いつの間にか眠りについて、気づいたら朝を迎えていました。
以下の記事に続きます。