この記事の続きです。
1話目はこちらです。
新人研修期間中はまだまだ学生気分が抜けず、良くも悪くもゆるい雰囲気でした。
毎日 学生の頃のように授業を受けて、時間になると退社する日々が続きます。
定時といっても17時くらいですからまだまだ空は明るいです。
給料をもらえて、空が明るいうちに退社して……
そんなことが許された人間たちは何をするかといえば、ひとつしかありません。
東京の夜の街に繰り出します。
社員証をぶら下げたまま遊んでなにか不祥事を起こしてしまうと会社に迷惑がかかるので、みんなカバンにしまって、そこからはプライベートを満喫していました。
まあ遊ぶといってもだいたいは飲みにいくというのがほとんどで、その頃は週3ペースで飲みにいっていました。
しかもお酒に関して荒くれ者が多くて、みんなハイペースで飲んでいきます。
いわゆる学生ノリでした。
飲み会でジャンケン大会が始まる
とくに次の日が休みである金曜日の飲み会は5割り増しでひどい荒れ方をしていました。
新人20人くらいでお店の一部を貸し切って飲んでいたときのこと。
僕は同じテーブルの何名かといつものように飲んでいたのですが、奥のテーブルではなにやら輪になってジャンケン大会が始まりました。
「ちょっとお前らもこいよ!」
と言われて参加すると、すぐさまジャンケンが始まります。
「じゃんけんぽん!」
あろうことか僕が負けてしまいました。
「罰ゲームや!」
という誰かの掛け声で、僕はハイボール(濃いめ)を一気飲みです。
お酒は比較的強いほうだったので、そのノリを受け入れ、一気に飲み干しました。
そしてすぐさままたジャンケンが始まります。
「じゃんけんぽん!」
今度は僕の隣の人が犠牲になりました。
内心、ほっとしていました。
一杯でもジョッキを飲み干すのはだいぶ辛いです。
しかしジャンケンは止まりません。
誰かがやめようと言うまで、いや、次のジャンケンをうながす人が一人もいなくなるまでその勝負は続きます。
「じゃんけんぽん!」
また僕が負けてしまいました。
そしてまたハイボールを一気飲みです。
よくよく見てみると、奥のテーブルにはあと10杯くらいハイボールがスタンバイしているではありませんか。
それは最低でもあと10回は勝負が続くということを意味していました。
なんとしてでも飲まないようにして10回の勝負を乗り切らなければなりません。
「じゃんけんぽん!」
あろうことか、また僕が負けてしまいました。
奇跡としかいいようがありません。
10人くらいが勝負に参加しているので、この短い間に僕が3回も負けるなんてことは考えられませんでした。
酔っ払っているのかな……。
手の内を読まれているのだろうか……。
その場は面白くなっているのですが、僕は本気でもう飲みたくありませんでした。
しかし、コールがやってくるともう断ることはできません。
人生初めての千鳥足
帰り道はみんなフラフラでした。
1年分のお酒のシャワーを浴びて、もう帰るしか選択肢はありません。
お酒は強いほうだったのですが、ジャンケン大会に加えて、その後もハイペースで飲んでいたのでさすがにここまで飲んだのは人生初めてのことでした。
(これが千鳥足っていうやつなのか……。)
酔っ払いつつもこういうことを思うくらい意識だけはしっかりしていました。
ここまでアルコールの分解が追いつかなくなると、こうも体の自由がきかなくなるものだということを学びました。
自分でフラフラだとわかっているのですが、頑張ってもまっすぐ歩けないのです。
みんな各自、ちらばって自分の帰宅ルートへと進みます。
僕も最初は何人かといましたが、電車の乗り換えで分かれていき、最終的にはひとりになりました。
そして急に帰りの電車で気持ち悪くなってきました。
「やばい! 吐きそう……!」
電車の中で吐くことはできません。
上野駅で電車が停まるとすぐにそこから降りて、トイレを探します。
しかし今日は金曜日、みんなちょうど飲み会の帰りなのでしょう。
どこのトイレも混んでいて、酔っ払ったサラリーマンが列をなしています。
これはまずいと、しかたなく駅のホームまで出てトイレを探しますがすぐに見つからず、駅を出てすぐの花壇のようなところの段差の端に座り込んでしまいました。
じっとしているとお酒がさらに回ってきているような感じになり、そこから動きたくなくなってしまいました。
その場でうずくまり、じっとお酒が抜けるのを待つことにしました。
金曜日の上野駅
酔っ払っていて時間感覚はわかりませんが、おそらく20分ほどたった頃でしょうか。
僕の隣に女性が座ってきました。
なにやら泣いているようす。
僕はうずくまっていましたが声を出して泣いていたのですぐにわかりました。
あまりにも大変そうだったので、心配になり声をかけてしまいました。
その方は、
「大丈夫です……。」
とだけ言っていました。
恋人と別れたのでしょうか……。
それとも他に何かつらいことがあったのでしょうか。
とにかく泥酔している僕は声をかけることしかできませんでした。
向こうからすると逆に他人から急に声をかけられて恐いに違いありません。
それ以上は深追いせずに僕はまたその場でじっと酔いが覚めるのを待っていました。
それよりも早くここから立ち上がって電車に乗らないと、今度は終電を逃して家に帰れなくなるかもしれないのです。
しかし気分はいっこうによくならず、ギリギリまでここにいて終電で帰ることにしました。
よく見てみると周りにも自分のように酔っ払って、しかも寝ている人たちが何人もいました。
東京ってすごいな……。
果たして無事に家に帰れるのでしょうか。
以下の記事に続きます。