この記事の続きです。
1話目はこちらです。
「それ、自分が行きたい。」
と言ってから、話はトントン拍子に進みました。
その後すぐに部署の飲み会があり、そのときにある偉い人から新人3人に、
「人が足りなくて困ってる。誰か来る意思のある人いないか。」
と持ちかけられました。
僕はもうほとんど準備はできていたので、すぐに
「行きます。」
と答えていました。
吉と出るか凶と出るか
今まではサーバーに関する業務を手がけるところにいたのですが、今度入る予定だったのはネットワークに関わるチームでした。
もしかすると過酷なことになるかもしれないとも思っていましたが、別にそれはそれで良いし、少なくとも暇な今よりはマシだろうと、これ以上詳しいことは聞かず、そのまま即答していました。
正直、業務の内容を聞いたところでどうせわかることもないので、同じだと思っていました。
少し自分の中での賭けでもありましたが「えいや」で飛び込んでみるのもいいかなと思っていたのです。
まさかこんなに自分に決断力があるとは思っていませんでした。
主任のお説教でメンタルが鍛えられたようです。
あれほど無意味だと思っていたものが、まさかここで活用されるとは……。
新しい経験というのはムダがないものです……。
異動先の課長との帰り道
飲み会も終盤に差し掛かった頃。
「よし、一緒に帰ろう!」
と異動先の課長に呼びかけられました。
「お前も来い!」
と、その課長の部下であり、僕より2歳年上の若手も誘われ、3人で一緒に帰ることになりました。
帰りはタクシーで、僕が助手席、後ろに課長とその部下が乗りました。
タクシー内の後ろではとくに何を話すわけでもなく、何気ない会話に花を咲かせていました。
そんなとき、
「そろそろウチに配属されて2年だねえ。最近、調子はどう?」
と話題は仕事の話に変わります。
その部下は課長のお気に入りのようで、それに答えるようすをウンウンと言いながら聞いていました。
課長はそれに付け加えます。
「そろそろ君にも下の人がついても良い頃だと思うけどどう思う?」
それを聞いて、課長お気に入りの部下は戸惑っていました。
「え、僕は……、僕にできるかどうか……。」
その部下は、しゃべっているのを聞く限り、マジメで頑張り屋さんで明らかに良い人だというのが伝わってきます。
でもどこか不器用なところがあって、課長はそんな部下のことをとても気に入って慕っているのかもしれません。
不安そうな部下に課長は言いました。
「キミなら出来るよ。」
「いつまでも自分だけで仕事をしているだけではいけない。他の人からもらって、自分が学んできたことを、今度はこれから他の人に伝えていくことも大事な仕事だし勉強だよ。」
「仕事が忙しいときは、下についてる人にやってもらえるようになるんだよ。」
そんな話を聞いて、部下は答えました。
「そうですね。自信はないけど頑張ってみたいと思います。」
そして、課長の話は僕に飛んできました。
「部下が欲しいんだけど、○○くん(僕の名前)、どうだい?」
僕は、
「ついていきます!」
と自分の意思だけ伝えました。
課長は、
「じゃあもうほとんど決まりだなあ。」
と嬉しそうに言っていました。
「あとは、今のキミの課長に『○○くん(僕の名前)を僕にください!』と頼んでみるね。」
そう言ったのを最後に、あとは取り留めの無い話で盛り上がりました。
酒に酔っていたのか、話が決まってスッキリしたのか、その場はとても和やかな会話で楽しかった記憶だけが残っています。
課長の器
そういえば、その課長に誘われてタクシーに乗るのはこれを含めて3回だけでした。
飲み会では課長は家族がいるためいつも先に帰ります。
しかし、思い返せばその課長とは、こういう新しい転機がある大事なときだけタクシーで一緒に帰ったのでした。
課長は、いつも自分の部下をみんな大切にして、守っているようすに見えました。
そんなようすが伝わってくるので、みんなもこの課長がいるところで働けて幸せだという、どこかそんな雰囲気がありました。
失礼かもしれませんが、タクシーの中で一緒にいた課長の部下は、不器用そうで、尊敬されるような器には見えません。
だけど、課長がそこまで気に入って慕っていると、僕も尊敬して、その人が言うことをちゃんと聞いておかなければならないと身が引き締まったものです。
それがなかったら、もしかすると年が近いので先輩後輩の分別がつかなくなることもあったのかもしれません。
課長の戦略かどうかは果たしてわかりませんが、最初に上下関係の土台をしっかり作っておくことで、仕事が円滑に進んだと実感することはこの先いくつもありました。
上に立つ人が自分の部下のことを信頼しているように見えれば、新しく入ってくる人もその人たちのことを尊敬し、一人一人がそのチームの一員として、プライドを持って仕事ができるようになるし、現にそこではそのような雰囲気ができているのを目の当たりにしました。
そのようなことに気を配れる人のもとで働いてみることで、みんなの仕事がやりやすくなるということを肌で感じました。
その課長に学んだことはたくさんありましたし、尊敬できる課長と働けたことはとても幸せなことでした。
以下の記事に続きます。