今はお別れしてしまったのだけど、昔 彼女とよくレンタカーでドライブしてた。
そのときの彼女とは嗜好が似ていて、毎週のように本当にいろんなところへ遊びに行った。
そんなわけで東京タワーやスカイツリー、水族館や動物園なんかも楽しいのだけど、定番なところはさすがにもう飽きてきていて、最終的には聞いたこともないローカル線沿いのスポット巡りや、美味しいラーメン屋を探す旅に出かける休日。
そんな最終的に残っていた遊びのひとつに、レンタカーであてもなく出かけるというものがあった。
だいたい3連休が近づくと「遠出したい」とどちらかが言い出し、2人の予定が空いていることがわかったら、とりあえず3連休1日目の夕方から24時間レンタカーをおさえる。
ふつうは3連休だったら初日の朝に出発して観光地を十分満喫してから最終日の夕方に帰ることが多いのだろうけど、これはそういう嗜みとは違う。
気軽に思い立ったら非日常な小旅行感を味わえるというのがポイントだ。
例えば会社の飲み会で満を持して良い居酒屋で大規模な宴を開くより、そのときたまたま残業しているメンバーの2, 3人で1時間ほど立ち飲みをして帰るほうが、安上がりな割には案外こっちのほうが楽しかったりする。
これは旅行についても同じように展開される。
旅行といっても1泊でいいし、ちょっとショッピングに出かける延長戦な感覚でいい。その代わりに一定以上のクオリティは望まない。
安上がりで手抜きだと言われたらそれまでだけど、これでも大ホームランに当たることがよくある。
例えばこれは静岡に行ったときのことだ。
都内から行くには東名高速道路に入って横浜方面へ向かう。時刻は21時。夜なら意外にスイスイ走れて気持ちいい。
途中の海老名パーキングエリアで遅めの夕食をすませ、またあてもなく出発する。これだけでもそれなりに楽しめる。
3連休といっても深夜になると、途中から霧が晴れたように車がいなくなって、道の左右に見える街灯のようなオレンジのライトが200メートル先まで続いているのを見ると、何か違う世界にきたような不思議な錯覚が生まれる。
彼女が隣でおもむろにCDを取り出し、持参してきたベストセレクションを鳴らし始めると、車内が急に華やかになって深夜なのも相まって、「なんでこんな時間にあてもなく車を走らせてるんだろう」とワクワクする気持ちが沸き起こる。
気づいたらもう真夜中。
こんな時間からどこへ行くかと思えば向かった先は富士山だ。
実は富士山はシーズンを外せば5合目まで車で登れる。
まさかこんな時間から車で登る人はいないだろうなと思っていたけど、本当に誰もいなくて、灯りがまったくなくて、シカが飛び出てくるし、標高が上がるにつれて寒くなってくるしで、怖くて何度も引き返そうとした。隣の彼女も不安げでたぶん同じことを考えていたと思う。
ここで事故を起こしたら終わりだよなあと思いながら、いつもより慎重にハンドル操作を行い、やっとのことで頂上に着くと、そこには広い駐車場があって、信じられないくらいの車と人がいて驚いた。どうやらこれから山頂まで登る人もいるらしい。
みんなこんなところにいたのかと思って安心していると もっとびっくりすることがあって、車を出て少し歩いたその先には、信じられないくらいの星空が広がっていた。
目線の下に雲がかかって普段なかなか巡り会わない光景だ。晴れていれば夜景も同時に見えるらしい。
結果的に最高の夏の思い出になった。
こうして静岡の市街地に戻ってくる頃には疲れていて今日は帰る気も起きないのでどこかに泊まる。
だいたいホテルが多いのだけど、真夜中からビジネスホテルにチェックインできるところはないので、この時間からだといかがわしいホテルになってしまう。
アメニティが揃っていて部屋も広いので、むしろこっちのほうが贅沢なくらいだ。
二人とも夜に出発したからにはどこかの空き地で車中泊なんかも覚悟してきたわけで、そもそもカップルなので別にいかがわしいホテルに泊まろうが後ろめたいことは何もない。
空室がなければ深夜に空いているスーパー銭湯の仮眠室で一泊するのもアリ、といったところだ。
その日はちょうど空いているホテルがあったのでそこに泊まることになり、疲れたのでベッドに横になればすぐに朝だ。
せっかく遠くに来たというので少し贅沢な朝食を食べ、富士山をバックに東京の進路へ帰りの車を走らせる。
こんなに旅行を満喫した気分になっているにも関わらず帰宅してもまだお昼くらいで、考えてみれば明日もう1日休みだった。
疲労の余韻に浸りながら最終日は家で撮り溜めしていたお笑いを見る。